イベリコ豚(Iberico pig)は、その美味しさと希少性から「豚肉の宝石」とも称される存在であり、その由来や背景にはスペインの文化や自然環境、畜産技術が深く関係しています。
以下に、イベリコ豚の由来について歴史的、地理的、品種的、文化的側面から詳しく解説します。
地理的な由来:イベリア半島がルーツ
「イベリコ豚」という名称は、スペインとポルトガルが位置するイベリア半島(Iberian Peninsula)に由来します。
この半島は古くから多様な動植物が生息する地域で、イベリコ豚も数千年前からこの地に土着していたとされています。
イベリコ豚が主に飼育されている地域は以下のとおりです。
- アンダルシア地方
- エストレマドゥーラ州
- カスティーリャ・ラ・マンチャ州
- サラマンカ県などの中西部地域
これらの地域には「デエサ(Dehesa)」と呼ばれる広大な樫(かし)の林が広がっており、イベリコ豚はこの地で放牧され、どんぐり(ベジョータ=Bellota)を食べて育ちます。
品種としての由来:黒くて足が細いイベリア種

イベリコ豚は、学術的には「スペイン・イベリア種」という独自の豚の品種に属します。
以下はその特徴です。
イベリコ豚の主な特徴
- 体毛が黒く、肌も黒っぽい(「パタ・ネグラ=黒い足」とも呼ばれる)
- 鼻先が長く、脂肪の付き方が独特
- 運動量が多く、筋肉と脂肪が絶妙に交差する
- 特にどんぐりを食べた個体は脂にオレイン酸が多く含まれる
この品種は、ローマ時代以前からイベリア半島に存在していた在来種で、長い年月をかけてこの土地に適応してきたと考えられています。
歴史的な由来:古代から続く自然放牧文化
イベリコ豚の放牧は、古代ローマ以前から存在していたとされ、長い年月をかけて独自の畜産文化が築かれてきました。
中世には、修道院や貴族階級によって管理され、どんぐりの森(デエサ)を活用した放牧技術が発展しました。
16世紀にはイベリコ豚の飼育方法が体系化され、スペイン内陸部の農村経済の基盤となりました。
そして20世紀に入ると、特にハモン・イベリコ(生ハム)の評価が国際的に高まり、イベリコ豚の名声も世界中に広がっていきました。
飼育方法と「ベジョータ」の文化
イベリコ豚の中でも、「ベジョータ(Bellota)」と呼ばれる等級は、どんぐりを主体とした自然放牧で育てられた最高級ランクです。
以下のような流れで飼育されます。
飼育の流れ(ベジョータの場合)
- 子豚の時期(約10か月まで)…穀物などで育成
- 放牧期(約3〜4か月)…「モンタネーラ」と呼ばれる期間にデエサで放牧され、どんぐりや草を自由に食べて育つ
- 体重が160kg〜180kgになるまで増加
- 屠畜後、長期間熟成させる(ハモンの場合は2〜4年)
この伝統的な飼育方法は、単に肉質を良くするだけでなく、自然環境の保全や生態系の維持にも貢献していることが評価されています。
近代とブランド化:原産地呼称と格付け制度
スペイン政府は、イベリコ豚の品質と生産体制を守るため、厳格な原産地呼称制度(Denominación de Origen:D.O.)や格付け制度を導入しています。
イベリコ豚の主な格付けランク
ランク | 飼料 | 純血率 | 説明 |
---|---|---|---|
ベジョータ(黒ラベル) | どんぐり | 100% | 最上級。自然放牧でどんぐりを主食とした完全純血のイベリコ豚 |
ベジョータ(赤ラベル) | どんぐり | 50〜75% | 雑種だがどんぐりで育てた豚 |
セボ・デ・カンポ(緑ラベル) | 穀物+放牧 | 50〜75% | 穀物を中心に、一部放牧も実施 |
セボ(白ラベル) | 穀物飼育のみ | 50〜75% | 一般的な飼育法。どんぐりを食べていない |
イベリコ豚の文化的意味
イベリコ豚は、単なる高級食材というだけでなく、スペインの食文化・農業文化の象徴的存在です。
伝統料理、祝祭、贈答品などにも使われ、「国宝」と言われるほどの価値を持ちます。
また、イベリコ豚は「サステナブルな畜産モデル」の一例としても国際的に注目されており、放牧と森の共生、地域経済の活性化、バイオ多様性の維持にも貢献しています。
まとめ
イベリコ豚の由来は、単なる地名や品種だけでは語り尽くせません。
その背景には、イベリア半島の自然環境、古代から続く畜産の知恵、地域の文化と誇りが息づいています。
美味しさの裏には、数千年の歴史と、今なお受け継がれる職人たちの技と哲学がある。
それが、イベリコ豚の魅力であり、その由来の真髄と言えるでしょう。
以上、イベリコ豚の由来についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。