イベリコ豚(Iberico pig)は、スペイン原産の黒豚で、その肉は特に「イベリコハム(ハモン・イベリコ)」として世界的に有名です。
イベリコ豚の肉質の良さは、遺伝的特性に加えて、飼育方法と餌(飼料)によって大きく左右されます。
以下では、イベリコ豚の餌について、その種類ごとの違い、与える目的、育成段階による変化などを詳しく解説します。
目次
イベリコ豚の餌の種類と育成段階
幼少期(離乳後〜育成期)
- 餌の内容:
- 穀物(トウモロコシ、大麦、小麦など)
- 豆類(ソラマメなど)
- ビタミン・ミネラル添加飼料
- 目的:
- 成長を促進し、健康な骨格と内臓の発育を助ける。
- 消化器系を穀物に慣れさせ、後の飼育段階への準備をする。
肥育期(通常の飼育豚:Cebo、Cebo de Campo)
この段階になると、イベリコ豚は以下の2種類の飼育形態に分かれます。
Cebo(セボ):屋内肥育
- 餌の内容:
- 穀物と豆類を中心とした人工配合飼料
- ほとんど運動をさせず、屋内で飼育
- 特徴:
- 肉の脂肪分はやや多めで柔らかいが、どんぐり特有の風味はなし。
- スーパーなどで比較的安価に手に入る「ハモン・イベリコ」はこのタイプが多い。
Cebo de Campo(セボ・デ・カンポ):半放牧
- 餌の内容:
- 配合飼料に加えて、自然の牧草や落ち葉、どんぐり(少量)を摂取
- 特徴:
- 運動量が多いため、筋肉質で締まった肉質に。
- 屋外運動によって風味がやや豊かになる。
モンタネーラ期(放牧・ドングリ肥育)
この段階は、最高級の「ベジョータ(Bellota)」として知られるイベリコ豚の飼育法であり、イベリコ豚の真骨頂ともいえる期間です。
Bellota(ベジョータ):放牧+ドングリ中心の飼育
- 期間:
- 秋から冬(10月〜翌年2月)にかけて、スペインの「デエサ」と呼ばれる広大な樫の林で放牧される
- 餌の内容:
- 主にドングリ(Acorn/スペイン語でBellota)
- 野生の草やハーブ、落ち葉
- 特徴:
- 1頭あたり最低でも1日10kg以上のドングリを食べる。
- 豊富なオレイン酸(不飽和脂肪酸)を含むため、脂がとろけるような舌触りに。
- ドングリ由来の香ばしくナッツのような香りと甘味が肉に移る。
- 放牧によって運動量が増え、赤身の質も高くなる。
なぜ「ドングリ」が重要なのか?

ドングリの主な栄養成分と効果
成分 | 効果 |
---|---|
オレイン酸 | 血中コレステロールを下げる、脂の口溶け向上 |
炭水化物 | 持続的なエネルギー供給 |
ポリフェノール | 肉の酸化を防ぎ、保存性・風味を高める |
天然ミネラル | 健康な発育と免疫力の維持 |
ドングリ中心の餌は、イベリコ豚の脂肪を「常温でも溶けるほど滑らか」にし、他の豚にはない独特の風味をもたらします。
イベリコ豚の格付けと餌の関係
イベリコ豚のハムは、スペインで法的に分類されており、餌と血統によって次のように分かれます。
格付け | 餌の内容 | 血統 | 特徴・ラベル色 |
---|---|---|---|
ベジョータ(Bellota) | 放牧+ドングリ | 100% or 75% イベリコ種 | 黒 or 赤ラベル |
セボ・デ・カンポ(Cebo de Campo) | 放牧+人工飼料 | 75% イベリコ種 | 緑ラベル |
セボ(Cebo) | 屋内+人工飼料 | 50% イベリコ種 | 白ラベル |
まとめ
飼育タイプ | 餌の主成分 | 肉質・特徴 |
---|---|---|
セボ | 穀物、豆類 | 脂多め、香りは穏やか、手頃な価格 |
セボ・デ・カンポ | 飼料+草、落ち葉など | 肉質やや締まりあり、風味も豊かに |
ベジョータ | ドングリ+牧草 | 芳醇な香り、脂の質が最高級、とろける味わい |
デエサ(Dehesa)とは?
- イベリア半島に広がる広大な樫の林(コルク樫やホルム樫)
- 天然の放牧地であり、イベリコ豚の理想的な生活環境
- 持続可能な生態系として世界的にも注目されている
最後に
イベリコ豚の「味の秘密」は、単に血統の良さだけでなく、その育てられ方と、餌の質と種類の選び方にあります。
とくにベジョータクラスの豚は、広い自然の中でストレスなく育ち、栄養価が高く風味豊かなドングリをたっぷり食べて育つため、他に類を見ない芳醇な風味を持つのです。
以上、イベリコ豚の餌についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。