スペインの豚料理は、地中海の豊かな食文化の中で非常に重要な位置を占めています。
スペインでは、豚肉は「デ・ベルロタ」というドングリを食べて育ったイベリコ豚など、品質が高く風味豊かな豚が多く飼育されており、特に加工品としても広く親しまれています。
スペインの豚肉料理には、生ハムやソーセージから煮込み、グリル料理まで、バラエティ豊かで地域ごとの特色が色濃く反映されています。
以下では、スペインの代表的な豚肉料理とその特徴、調理法について詳しく解説します。
ハモン・イベリコ(Jamón Ibérico)
ハモン・イベリコは、スペインのイベリコ豚を使った高級生ハムで、特に有名な豚肉加工品です。
イベリコ豚は、スペイン南西部のデエサと呼ばれるドングリが豊富に実る地域で育てられ、そのドングリ(ベルロタ)を食べて成長するため、風味豊かで独特のナッツのような甘い味わいを持つ肉質になります。
- 調理法: ハモン・イベリコは、豚の後脚を塩漬けにし、長期間熟成させて作られます。熟成期間は最低でも24ヶ月以上ですが、高品質なものは36ヶ月や48ヶ月と長期間熟成され、深い風味が生まれます。スライスされたハモンは、オリーブオイルを添えて、またはパンに載せて前菜として提供されることが多いです。
- バリエーション: ハモン・セラーノ(Jamón Serrano)は、イベリコ豚ではなく白豚を使用した生ハムで、ややあっさりとした味わいがありますが、こちらも非常に人気があります。
チョリソ(Chorizo)

チョリソは、スペインを代表する豚肉のソーセージで、赤いパプリカ(ピメントン)とガーリック、塩、スパイスを混ぜ込んだものです。
燻製されたものや生のまま食べるものがあり、料理に使ったり、そのまま食べたりと非常に汎用性が高い豚肉製品です。
地方によって使用するスパイスや燻製の度合いが異なり、さまざまな風味が楽しめます。
- 調理法: チョリソは、豚の挽肉にスパイスを混ぜてソーセージ状に成形し、乾燥させて熟成させます。燻製したものは保存性が高く、そのままスライスして食べるのが一般的です。炒め物や煮込み料理に使う生のチョリソもあり、料理全体にスモーキーな風味とスパイスの香りを与えます。
- バリエーション: 地方によって、甘口のチョリソ(Chorizo Dulce)と辛口のチョリソ(Chorizo Picante)に分かれ、特に辛口のものは唐辛子を加えることでピリッとした刺激的な味わいを楽しむことができます。
コチニージョ・アサード(Cochinillo Asado) – カスティーリャ地方
コチニージョ・アサードは、スペインのカスティーリャ地方の名物料理で、生後2~6週間の乳飲み豚を丸ごとローストしたものです。
特にセゴビア地方で有名で、皮がパリパリに焼き上がり、中は非常に柔らかくジューシーに仕上がります。
スペインでは特別なイベントや祝祭の際に食べられる料理として知られています。
- 調理法: コチニージョは、塩を振りかけてじっくりとオーブンでローストされます。調味料はシンプルに塩とオリーブオイルのみで、豚肉の自然な風味を引き立てます。ローストする際は、低温でじっくりと時間をかけて火を通し、皮がカリカリになるまで焼きます。
- 提供方法: コチニージョは、豪快に丸ごと焼かれ、テーブルでナイフやフォークではなく、セラミックのお皿で切り分けるのが伝統的なスタイルです。これは、肉があまりにも柔らかいので、お皿で簡単に切れることを示すためです。
ラコン・コン・グレロス(Lacón con Grelos) – ガリシア地方
ラコン・コン・グレロスは、ガリシア地方の伝統的な豚肉料理で、豚の肩肉(ラコン)を使用し、ジャガイモや「グレロス」と呼ばれる地元の菜の花の一種と一緒に煮込む料理です。
寒い季節に特に好まれ、豚肉の旨味が野菜やジャガイモに染み込み、豊かな風味が楽しめます。
- 調理法: 豚の肩肉は塩漬けにしてから、塩抜きをして茹でます。茹でた豚肉にジャガイモやグレロスを加え、さらに煮込むことで全体に味が馴染むようにします。グレロスのほろ苦さと豚肉の塩気が絶妙なバランスを生み出し、シンプルながら風味豊かな一皿になります。
- バリエーション: 豚肉の部位は肩肉の他にも使用され、地元の季節野菜と一緒に調理されることが多く、料理全体が冬にぴったりの温かい風味に仕上がります。
カラマレス・エン・ス・ティント(Calamares en su Tinta)と豚肉
スペインでは、豚肉は海産物と組み合わせた料理にも登場します。
特に「カラマレス・エン・ス・ティント」は、イカの墨で煮込んだイカ料理ですが、これに豚肉を加えてコクを出すことがあります。
海と山の食材を組み合わせたこの料理は、スペインの多様な食文化を象徴する一品です。
- 調理法: イカを自らの墨で煮込む際に、豚肉を加えることでさらに深いコクを与えます。イカ墨の塩気と豚肉の甘みが相まって、濃厚で風味豊かな煮込み料理になります。豚肉は主に薄切りや小さな塊で使用され、他の海産物と一緒に煮込むことで味わいに複雑さを加えます。
プーチェロ(Puchero) – アンダルシア地方
プーチェロは、スペイン南部アンダルシア地方でよく食べられる煮込み料理です。
豚肉の骨や、ベーコン、チョリソ、ハモンの残り物を使い、豆類や野菜と一緒に煮込む素朴な料理で、家庭的な味わいが特徴です。
寒い季節に食べられることが多く、スープとしても楽しめる一品です。
- 調理法: 大きな鍋で豚肉の骨や肉を野菜(キャベツ、ジャガイモ、にんじんなど)と一緒に煮込みます。時間をかけて煮込むことで、豚肉の旨味がスープにしっかりと染み込みます。また、煮込んだ後の肉を取り出して、主菜としても食べられます。スープとしての役割と、具材としての肉の両方が楽しめる料理です。
トゥルトン・デ・ソブレアサダ(Turrón de Sobrasada) – バレアレス諸島
バレアレス諸島では、ソブレアサダという柔らかいソーセージを使った料理が有名です。
ソブレアサダは、豚肉とパプリカ、スパイスを混ぜ込んだソーセージで、塗るタイプのソーセージとしてパンに塗ったり、さまざまな料理に使用されます。
トゥルトン・デ・ソブレアサダは、このソーセージを使った伝統的な料理です。
- 調理法: ソブレアサダはパンやクラッカーに塗ったり、オーブンで軽く焼いて香ばしさを加えることができます。甘めの蜂蜜やフィグ(イチジク)とも相性が良く、前菜として提供されることが多いです。
エンブティード(Embutido) – スペイン全土
「エンブティード」は、スペイン全土で広く食べられている豚肉の加工食品の総称で、特にソーセージや腸詰めを指します。
チョリソ以外にも、ボティファラ(Butifarra)やサルチチョン(Salchichón)など、さまざまな種類のエンブティードがあり、それぞれ異なるスパイスや燻製技術で作られます。
- 調理法: 乾燥させたり、燻製にしたりして保存性を高めたものが多く、前菜としてスライスして食べるか、煮込み料理に加えて風味を出すことが一般的です。特に「ボティファラ・ネグラ(Butifarra Negra)」は血を使ったソーセージで、独特の風味を持つスペインの郷土料理です。
スペインの豚肉の調理法
スペインでは、豚肉はシンプルな調味料でその風味を引き立てながら、以下の調理法がよく使われます。
- ロースト: 特に「コチニージョ」のように、豚肉を丸ごとローストする調理法が祝い事などで用いられます。
- 燻製・乾燥: スペイン特有の「ハモン」や「チョリソ」に代表されるように、燻製や乾燥させて保存食としても利用されます。
- 煮込み: プーチェロやラコン・コン・グレロスのように、じっくり煮込むことで豚肉の旨味を引き出す料理も多く見られます。
スペインの豚肉料理は、地域ごとに異なる伝統や技術が詰まったものばかりで、シンプルでありながら深い味わいが楽しめるのが特徴です。
以上、スペインの豚料理についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。